突然よみがえった記憶がある。
わたしには弟がいるらしい。
いるらしいのだが会ったことがない。
そしてこの世界の住人ではない。
そして弟かどうかは、実はわからない。
なぞなぞのようだが、その答えは堕胎されたから。
わたしが成人してから、何気ない会話の狭間に、ひょいと聞かされたお話。
その話を聞いた時、妙に合点がいったのだ。
子どもの頃、わたしもずっとそう思っていた記憶を思い出したから。
3人きょうだいの末っ子のわたしは、どうしても自分が末っ子とは思えなかった。
自分の下にきょうだいがほしかった。
女ではなく男、弟が。
そして、もし弟がいたら、あんな事やこんな事をして一緒に遊びたいと思っていた。
しかしわたしは、その子の性別もわからないはずなのに男の性だと思う。
そして会ってはいないけれど、存在を感じあっていたはず、
母の皮膚越しに、子宮の壁越しに。
昨日、夢の中で弟の魂と出会った。
弟は今までわたしを見守っていたと言った。
弟はこれからもわたしを見守っていると言った。
わたしはまるで生まれて初めて、自分ではない誰かに包まれている膜を感じる。
誰かに見守られているということ、
柔らかい光と温かい気体に丸く包まれる。
ああ、ここは子宮の中なんだ。
この子宮は母親のなのだろう。
でも子宮の中にいるのはわたしではない。
弟に残っている感覚の記憶が、わたしの記憶の中に注ぎ込まれている。
思い出したよ。
わたしはいつもきみと遊んでいた。
いつも楽しそうに笑いあっていた。
わたしの想像の記憶の中で。
思い出したよ。
わたしはひとりきりじゃなかったんだね。
…そういえば合点がいった事が、ほかにもあったような…
…そう、娘の障がいを知った時の、あの気持ちだ。
何だろなんだろ…
ああ、何だかここでやっとつながって環になった感じがするよ…。
するともしかして、わたしが障がいを持つ弟を生まれかわらせたのか?